- 入れる時期
- 植え付けの 2 週間前
- 量の目安
- 1平米に 2〜3kg
- 役割
- 保水性と排水性を改善
堆肥は「効かせる」ものではなく「土を作る」ものです。肥料が作物に養分を渡すのに対して、堆肥は土の中の微生物を養い、その微生物が土の粒をつなぎ直します。だから同じ量を入れても、効き目が出るのは今日ではなく来月、そして来年です。ここでは売り場で並ぶ三種類の違いから、野菜・草花・果樹での使い分け、冬のマルチング、そして「なぜすき込むと良いのか」までを順に見ていきます。
大きく三種類 — 牛ふん堆肥・バーク堆肥・腐葉土
家庭菜園の売り場に並ぶ堆肥は、原料でおおむね三つに分かれます。どれが優れているという話ではなく、養分を足したいのか、土の構造を変えたいのかで選ぶものが変わります。
牛ふん堆肥
牛のふんとおがくず・わらを発酵させたもの。養分を含み、微生物のえさになる
三種類の中でいちばん養分を含みます。窒素・リン酸・カリを少しずつ持ち、微量要素も入るため、肥料と土壌改良材の中間のような立ち位置です。粒が細かく、土に混ざると水もちが良くなります。
注意したいのは未熟なもので、袋を開けたときにふんの匂いやアンモニア臭が強いものは発酵が終わっていません。土の中で分解が続くと熱とガスが出て、根を傷めます。黒っぽく、土の匂いがして、手で崩れるものを選びます。
- 養分: 三種類の中で最も多い
- 向く場面: 野菜の土づくり、弱った果樹の株周り
- 注意: 未熟なものは根を傷める。入れすぎると窒素過多になる
バーク堆肥
樹皮を砕いて発酵させたもの。養分は少なく、土の骨格を作る
樹皮 (バーク) が原料で、繊維が残っているため粒が粗く、分解にも時間がかかります。養分はほとんど期待できません。その代わり土の中で長くかたちを保ち、粘土質の土に隙間を作って水はけと空気の通りを良くします。
ゆっくり分解するということは、微生物のえさが長く続くということでもあります。効果を実感するのに数か月かかりますが、一度入れた場所は数年にわたって柔らかいままです。粗いまま地表に敷けば、マルチングの材料にもなります。
- 養分: ほとんどない (土壌改良が目的)
- 向く場面: 粘土質の畑、草花の花壇、冬のマルチング
- 注意: 未熟だと分解のときに土の窒素を奪う (窒素飢餓)
腐葉土
落ち葉を発酵させたもの。軽くふかふかで、鉢やプランターの定番
広葉樹の落ち葉を積んで分解させたもので、三種類の中でいちばん軽く、握ると弾むような感触があります。養分は少なめですが、土に混ぜたときのふかふか感がはっきり出るため、鉢やプランターの用土づくりでよく使われます。
赤玉土と腐葉土を七対三ほどで混ぜた用土は、多くの草花と観葉植物に通用します。葉の形がまったく分からないほど細かいものより、うっすら形が残るくらいのものが扱いやすく、値段も手ごろです。
- 養分: 少ない
- 向く場面: プランター・鉢の用土、種まき床、草花の植え付け
- 注意: 完全に分解した「土」に近いものは、隙間を作る力が弱い
そのほかの堆肥
鶏ふん・馬ふん・もみ殻・生ごみ堆肥。狙いがはっきりしているときに足す
鶏ふん堆肥はリン酸とカルシウムが多く、実や花を狙う場面に効きます。ただし養分が濃いので、堆肥というより肥料のつもりで量を絞ります。馬ふん堆肥はわらの割合が高く、牛ふんとバークの中間のような性格です。
もみ殻くん炭は炭なので分解されず、土の隙間と微生物のすみかを長く保ちます。生ごみ堆肥は台所から出るものを減らせる利点がありますが、発酵が不十分だと虫と匂いのもとになるため、完全に分解してから使います。
- 鶏ふん: リン酸が多い。量は控えめに
- もみ殻くん炭: 分解されず、隙間が長持ちする
- 生ごみ堆肥: 完熟させてから。未熟なまま埋めない
三種類の比較 — 目的・効果・使う場面
迷ったら、この表の左端「何をしたいか」から選びます。養分を足したいのか、土の構造を変えたいのかで、手に取る袋が変わります。
| 種類 | 主な目的 | 土に出る効果 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 牛ふん堆肥 | 養分を足しながら土を作る | 水もちが良くなる。微生物が増えて分解が進む | 野菜の土づくり、弱った果樹の株周り、家庭菜園の年 1 回の投入 |
| バーク堆肥 | 土の骨格を作る | 隙間ができて水はけ・空気の通りが良くなる。効果が数年続く | 粘土質の畑、草花の花壇、庭木の株元、冬のマルチング |
| 腐葉土 | 軽くふかふかにする | 保水性と通気性が同時に上がる。根が伸びやすい | プランター・鉢の用土、種まき床、草花の植え付け |
| 鶏ふん堆肥 | 実と花のための養分を足す | 速めに効く。カルシウムも補える | 実がつく前の追加、量を絞って使う |
野菜の土づくりでの使い方
野菜は一年のうちに大きく育って収穫まで進むため、土に養分と柔らかさの両方が要ります。牛ふん堆肥を主役にして、粘土質で水はけが悪い畑ならバーク堆肥を足す、という組み合わせが基本です。
量の目安は一平方メートルあたり二から三キログラム、袋にすると二十リットル入りの半分から一袋分です。多く入れれば良いというものではなく、毎年入れ続けると養分が蓄積して、葉ばかり茂って実がつかない状態になります。
- 石灰を先に入れる植え付けの二週間以上前に苦土石灰をまいて耕します。石灰と堆肥を同時に入れると、化学反応でアンモニアが出て養分が逃げるためです。
- 一週間後に堆肥石灰が土になじんだ頃に牛ふん堆肥を全面にまき、深さ二十センチほどまで耕して混ぜます。表面に置くだけでは根の届く層に入りません。
- さらに一週間おく堆肥が土になじみ、分解の初期に出るガスが抜けるのを待ちます。この間に畝を立てておくと作業が分散できます。
- 元肥を入れて植える植え付けの直前に元肥(あらかじめ土に混ぜておく肥料)を入れます。堆肥は土づくり、元肥は作物の食事、と役割を分けて考えます。
記録アプリの作業種別「土づくり」に、入れた堆肥の種類と量を残しておくと、翌年に増やすか減らすかを迷わずに決められます。
草花の土づくりでの使い方
草花は野菜ほど養分を必要とせず、むしろ肥料が多いと茎が伸びすぎて姿が乱れます。そのため主役はバーク堆肥か腐葉土にして、牛ふん堆肥は控えめにするか使わない、という配分になります。
花壇に地植えするなら、植え付けの二週間前にバーク堆肥を一平方メートルあたり二から三リットルすき込みます。プランターなら市販の培養土で足りますが、二年目以降の古い土を再生するときに腐葉土を三割ほど混ぜると、また根が伸びるようになります。
同じ「堆肥を入れる」でも、育てるものによって選ぶ種類と量が変わります。
| 育てるもの | 主に使う堆肥 | 一平方メートルあたりの目安 |
|---|---|---|
| 夏野菜・葉物野菜 | 牛ふん堆肥 (+ 粘土質ならバーク堆肥) | 二〜三キログラム |
| 一年草の花壇 | バーク堆肥または腐葉土 | 二〜三リットル |
| 宿根草・多年草の花壇 | バーク堆肥 (数年に一度) | 三〜四リットル |
| 鉢・プランター | 腐葉土を用土に三割 | 用土の量に対して三割 |
ラベンダーやローズマリーのように乾いた土を好むものは、腐葉土を多くすると水もちが良くなりすぎます。この場合は軽石や砂を足して、水はけの側に振ります。
果樹での使い方 — 弱った樹を立て直す
果樹は何年も同じ場所に立っているため、土が少しずつ固く痩せていきます。葉の色が薄い、新しく伸びる枝が短い、実が小さくなった。そういう樹は肥料をやる前に、まず根が呼吸できているかを疑います。
効くのは、株元ではなく枝先の真下です。細かい根は枝が広がっている外周の地面にいちばん多く、幹のすぐそばには太い根しかありません。この外周に沿って牛ふん堆肥をまき、表土と軽く混ぜるか、そのまま敷きます。
- 枝先の真下に円を描く樹の枝がいちばん外まで伸びている位置を見て、その真下を幹を中心とした輪だと考えます。細い根が集まっているのはこの帯の下です。
- 牛ふん堆肥を帯状にまくその輪に沿って、幅五十センチほどの帯に牛ふん堆肥をまきます。若木で一株あたり五リットル、成木で十から二十リットルが目安です。
- 深く耕さずに混ぜる表土を五センチほどかき混ぜる程度にとどめます。深く掘ると細い根を切ってしまい、弱った樹をさらに弱らせます。
- 上から敷きわらか落ち葉をかける堆肥がむき出しだと乾いて分解が止まります。上に敷きわらや落ち葉をかぶせておくと、湿り気が保たれて分解が進みます。
施す時期は落葉果樹なら十二月から二月の休眠期 (寒肥) が基本です。弱りが目立つときは、真夏と厳寒期を外せば春や秋でも構いません。効き目は数週間ではなく、翌シーズンの伸びで確かめます。
混ぜずに敷く — マルチングという使い方
堆肥は土に混ぜるものだと思われがちですが、地表に敷くだけでも働きます。この使い方をマルチングと呼び、混ぜる場合とは狙いが変わります。土を掘り返さないので、根を傷めず、すでに植わっている株にも使えるのが利点です。
冬のバーク堆肥は、その代表例です。株元に三から五センチの厚さで敷くと、繊維の層が布団のように働いて地温の急な低下をやわらげ、霜柱で株が持ち上がるのを防ぎます。春になれば下から少しずつ分解が進み、そのまま土壌改良材に変わります。敷いたものを片づける必要がありません。
牛ふん堆肥を株の周りに薄く敷く使い方もあります。こちらは保温より、土の表面で微生物を働かせるのが狙いです。地表と土の境目は水分と空気の両方がある層で、微生物がいちばん活発に動きます。ここに養分を含む堆肥を置くと、分解が進み、その産物が雨と一緒に根の層へ下りていきます。
同じ「敷く」でも、材料と時期で得られるものが違います。
| 場面 | 使う堆肥 | 厚さ | 狙い |
|---|---|---|---|
| 冬の花壇・庭木の株元 | バーク堆肥 | 三〜五センチ | 霜対策、地温の保持、雑草を抑える、数か月かけた土壌改良 |
| 野菜の株周り (生育期) | 牛ふん堆肥 | 一〜二センチ | 微生物の活性化、乾燥防止、雨で養分を下ろす |
| 夏の果樹の株元 | バーク堆肥または敷きわら | 五センチ | 地温の上がりすぎを防ぐ、水分を保つ |
| プランター | 腐葉土 | 一センチ | 表土の乾きと固まりを防ぐ |
敷くときは株の根元にぴったり寄せず、茎から数センチ離します。茎に直接触れたまま湿っていると、そこから腐ることがあります。
なぜすき込むと良いのか — 土の中で起きていること
ここまで「土が柔らかくなる」と書いてきましたが、柔らかくしているのは私たちのスコップではありません。耕して砕いた土は雨が数回降れば元の固さに戻ります。堆肥を入れた土が長く柔らかいままなのは、微生物が働いているからです。
土に堆肥が入ると、まず細菌と糸状菌 (カビの仲間) がそれをえさにして一気に増えます。彼らは分解しながら、ねばりのある物質を体の外に出します。この粘りが土の細かい粒どうしを寄せ集めて、小さな団子を作ります。糸状菌の菌糸は糸のように伸びて、その団子を物理的に縛ります。
こうしてできた団子の集まりが「団粒構造」です。団子と団子の間には大きな隙間ができて水と空気が通り、団子の内側には細かい隙間が残って水を抱えます。水はけと水もちという、本来なら相反する二つが同時に成り立つのはこのためです。単に耕しただけの土にはこの構造がなく、隙間はすぐつぶれます。
微生物が増えると、土の中の顔ぶれも変わります。細菌を食べるミミズや小さな土壌動物が集まり、彼らの通り道がさらに大きな隙間になります。特定の菌だけが優勢にならないため、根の病気を起こす菌が増えにくくなるとも言われます。堆肥は作物に養分を渡す道具ではなく、この生き物の層を厚くするための投資です。
効き目が遅いのはそのためです。堆肥を入れた翌週に何かが変わるわけではありません。微生物が増え、粘りが出て、団子ができるまでに数週間から数か月かかります。だから植え付けの二週間前という目安があり、毎年少しずつ続けることに意味があります。
未熟な堆肥が根を傷めるのも、同じ仕組みの裏返しです。分解の途中のものを土に入れると、微生物が一気に増える過程で酸素と土の中の窒素を大量に使い、熱とガスが出ます。根はその巻き添えになります。完熟したものを選ぶ、というのはこの段階を土の外で終わらせておく、という意味です。
土づくりは一年では終わらない
堆肥を一度入れただけの土と、三年入れ続けた土は、握ったときの感触がはっきり違います。前者はまだ粉のように崩れ、後者は軽く握ると固まり、指で押すとほろりと解けます。この「ほろりと解ける」状態が、根がいちばん伸びやすい土です。
一年目は水はけと水もちが少し良くなった、という程度の変化です。二年目には微生物と土壌動物が増え、耕したときのスコップの入り方が変わります。三年目以降になると、雨が降った後に水たまりが残らなくなり、乾いた日が続いても土の中がまだ湿っている、という状態になります。
逆に、堆肥をやめると土は数年かけて元に戻ります。団粒構造は生き物が作っているものなので、えさが途切れれば維持されません。毎年同じ量を入れ続けることが、遠回りに見えて確実です。
同じ畑でも、日当たり、水はけ、前に何を育てたかで進み方は変わります。だからこそ、何をいつどれだけ入れて、その後どう育ったかを残しておく価値があります。土づくりは記録が効く作業です。三年前の自分の判断を見返せる人は、四年目でつまずきません。
よくある質問
堆肥と肥料は何が違いますか。
肥料は作物に養分を直接渡すもので、堆肥は土の中の微生物を養い、土の構造を作るものです。牛ふん堆肥のように養分を含むものもありますが、目的は土づくりにあります。堆肥を入れたから肥料が要らなくなる、という関係ではありません。
堆肥はいつ入れればよいですか。
植え付けや種まきの二週間以上前です。土に入った堆肥は微生物に分解される過程でガスと熱を出すため、その期間を置いてから植えます。石灰も使う場合は、石灰を先に入れてさらに一週間空けます。
入れすぎるとどうなりますか。
牛ふん堆肥や鶏ふん堆肥のように養分を含むものは、入れすぎると窒素が過剰になり、葉ばかり茂って実がつかない状態 (つるぼけ) になります。バーク堆肥や腐葉土は養分が少ないので過剰害は出にくいものの、土が軽くなりすぎて株が倒れやすくなります。
完熟しているかはどう見分けますか。
袋を開けたときに、ふんやアンモニアの刺激臭ではなく土の匂いがすること、色が黒っぽいこと、握るとほろりと崩れることが目安です。触って温かいものは、まだ発酵が続いています。
プランターにも堆肥は要りますか。
新しい培養土を使うなら不要です。二年目以降の古い土を使い回すときに、腐葉土を三割ほど混ぜると根が伸びる状態に戻ります。ただし病害虫が出た土は、混ぜるより入れ替えるほうが確実です。
調べたら、次は記録する番。
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