アプリをリリースしたら早速身内にも使ってもらいたいと思うのが開発者の性。ということで、70代の父に Gadenin を渡したら、早速衝撃を受けたと同時に、ショックを受けた。なんと最初のサインアップの時点で躓いて、離脱ユーザーとなるところだった。
このアプリの開発した当初にターゲットとしていたユーザー層は50, 60代だったので、そうとうシンプルに設計したつもりだった。工夫したポイントとしては、サインインの後に「@アカウント ID を決める」画面が挟まっている。ID を決めるまで先へ進めない作りだった。あれが関門だ。普通はTwitterはじめ、最初にアカウントIDを決めるのは鉄則だし、最近だとゲームでもアカウント名をきめてからゲームスタートするのが当たり前だけど、それできっと詰まる人が多いと思った。
ということで、そもそも ID を決める画面を初期はスキップしてでも利用ができるようにした。
しかしながら、本当の関門はもっと手前にあった
父が止まっていたのは ID を決める画面の手前、「Google でサインイン」と「Apple でサインイン」が並んでいるところだった。
この画面には問題が2つある。
1つ目は、Google のボタンが上にあって、その下にAppleでのサインイン。高齢ユーザーは自分がどのアカウントを保持しているのか認知していないのである。大抵の人はYouTubeなどでGoogleのアカウントをすでにもっていて、最近だと高齢の方でもなんなくYouTube動画を視聴して楽しんでいる人が増えてきている。しかしながら、どういうわけかGoogleのアカウントが何なのかわからない人が大半で、パスワードはもとより、もちろんPasskeyによる認証や2段階認証(2-Step Verification / 2FA)はもってのほかで、そんな黒魔術みたいなサインインがあるなんて話をした日には暴動が起きてしまう。
2つ目の問題は、親切心でおいた2つのログイン方法自体が高齢ユーザーを混乱させる原因の一つになるということだ。ここで60, 70代のユーザーは離脱してしまう。見に覚えのない2択を突きつけられる恐怖感も抱く。
僕の当初の Apple サインイン方式の実装の問題テント解決策
もう一つ、ボタンを押した後にも関門があった。
Apple でサインインすると、いきなり Face ID で終わるわけではない。Gadenin では、途中で「名前をどうするか」「メールアドレスを共有するか、非公開にするか」を選ぶ画面が表示されていた。サインインするだけなのに、また選ばなければならない。原因は、アプリ側から Apple に「名前とメールアドレスも欲しい」と要求していたことだった。
コードでいうと、expo-apple-authentication の requestedScopes に FULL_NAME と EMAIL を指定していた。
ところが調べてみると、受け取った名前はバックエンドで分解しているだけで、その後どこにも使っていなかった。つまり、使っていない情報を受け取るために、ユーザーには余計な判断をさせていた。 そこで、名前もメールアドレスも要求しないように変更した。 すると Apple の画面から選択肢が消え、「続ける」を押して Face ID で認証するだけになった。
アプリの画面をきれいにすることばかり考えていたけれど、実際にはこういう「OS が出している画面」のほうが大きな関門だったのかもしれない。
最終的にどうしたか?の僕のUX課題の解決方法
最終的にやったことは、かなり単純だった。
iOS では、最初の画面に「Apple でサインイン」のボタンだけを大きく表示することにした。Google でのサインインをなくしたわけではない。「別の方法で始める」を押せば、その場で Google のボタンも表示される。
変えたのは、選択肢の数ではなく、最初に見せる選択肢の数だ。
以前は Apple と Google のボタンが同じように並んでいた。使い慣れている人なら、どちらか好きなほうを押せばいい。でも、父にとってはそうではなかった。
「Apple と Google、どっちを押せばいいんだ?」
ここで一度、考えなければならない。
僕からすれば数秒もかからない選択だった。でも、そもそも「Apple アカウント」「Google アカウント」という概念を普段あまり意識していない人にとっては、どちらが正解なのか分からない。
だったら、最初から選ばせなければいい。ということでこうだ。
iPhone を使っているのだから、まずは Apple で進んでもらう。別の方法を使いたい人若者たちにだけ、Google という選択肢を見せる。スクショを見ると分かりやすいが、画面を開いたとき、目に入る大きなボタンは一つしかない。「どっちを押す?」から、「これを押す」に変えた。
黒いボタンを押せば次へ進める。
もちろん、Google を使いたい人の逃げ道は残してある。でも、何も分からない人に最初からすべての選択肢を渡すのはやめた。
機能を減らしたわけではない。選択肢を、必要になるまで隠した。今回の修正で一番大きかったのは、ボタンのデザインを変えたことではなく、サインアップの入口をできるだけ一本道にしたことだった。
当たり前のようで、シンプルが一番いいに決まってる。押せるボタンは2個より1個しかない方が迷わない。
@ID は自分で決めさせない
最初に直した @アカウント ID の画面も、順番こそ間違えたが、やはり直す必要があった。Gadenin の @アカウント ID は、投稿やプロフィールに表示されるユーザー名だ。
入力するだけなら数秒で終わる。でも実際に求めているのは、単なる文字入力ではない。「これから人に見られる自分の名前を考えてください」という作業だ。しかも、初めて使うアプリで突然それを求められる。
どんな名前にすればいいのか。他の人にはどう見えるのか。本名にするのか、ニックネームにするのか。あとから変更できるのか。
僕らが思っている以上に、考えることが多い。
父は実際にはこの画面までたどり着いていなかった。でも、仮にたどり着いていたとしても、ここでまた止まっていたと思う。
調べてみると、そもそも Gadenin のバックエンドは、サインインした時点ですでに仮の ID を発行していた。@a1b2c3d4e5 のような、ランダムな英数字の ID だ。
つまり、ユーザーにその場で名前を決めてもらわなくても、アプリを使い始めることはできた。
それなのにアプリ側でわざわざ ID の入力画面を出し、「決めるまで先へ進めない」という関門を作っていた。
そこで、仮の ID が発行されたら、そのままホーム画面まで進めるようにした。
ホームには「アカウント ID は @a1b2c3d4e5 になっています」という案内だけを出す。「このままでよい」を押せば、その案内はもう表示しない。自分で決めたい人は、その案内や設定画面からいつでも変更できるようにした。
大事なのは、IDをなくしたことではない。
「今ここで決めないと先へ進めない」をやめた。
まだアプリが何なのかも分かっていない段階で、自分の名前を考えさせる必要はない。
まず使ってもらう。名前を考えるのは、そのあとでいい。
しかも、初めて使うアプリで突然それを求められる。
どんな名前にすればいいのか。他の人にはどう見えるのか。本名にするのか、ニックネームにするのか。あとから変更できるのか。
僕らが思っている以上に、考えることが多い。父は実際にはこの画面までたどり着いていなかった。でも、仮にたどり着いていたとしても、ここでまた止まっていたと思う。
そもそも Gadenin のバックエンドは、サインインした時点ですでに仮の ID を発行していた。@a1b2c3d4e5 のような、ランダムな英数字の ID だ。
つまり、ユーザーにその場で名前を決めてもらわなくても、アプリを使い始めることはできた。それなのにアプリ側でわざわざ ID の入力画面を出し、「決めるまで先へ進めない」という関門を作っていた。
そこで、仮の ID が発行されたら、そのままホーム画面まで進めるようにした。ホームには「アカウント ID は @a1b2c3d4e5 になっています」という案内だけを出す。「このままでよい」を押せば、その案内はもう表示しない。自分で決めたい人は、その案内や設定画面からいつでも変更できるようにした。
大事なのは、IDをなくしたことではない。「今ここで決めないと先へ進めない」状態をなくした。
まだアプリが何なのかも分かっていない段階で、自分の名前を考えさせる必要はない。 まず使ってもらう。名前を考えるのは、そのあとでいい。
人に使ってもらって、初めて分かる
当たり前なんだけど、FBがどれだけありがたい存在なのか今回改めて痛感した。これだけAIが普及して、とてつもないトークンを燃やし続けても気付けないポイントは山程存在する。人間が愚かだからこそ、AIにはわからないことが多すぎる。愚かな人間にAI様が寄り添う日はまだまだ遠い。
結局、作っている側だけでは気づけないことがある。実際に人に使ってもらって初めて、「ここで迷うのか」「これは怖く見えるのか」と分かる。
今回、父に使ってもらっただけでも、いくつも直すところが見つかった。
こういう「人はなぜそこで迷うのか」をもう少しちゃんと考えたくて、最近あらためて読んでいるのが『UXデザインの法則 ―最高のプロダクトとサービスを支える心理学』。
UXを感覚ではなく、人の心理から考えるきっかけになる本だった。プロダクトを作っている人にはおすすめしたい。
UXは「感覚」だけで考えない
今回のように、実際に人に使ってもらうと、作り手には見えていなかった「迷うポイント」が見えてくる。 では、人はなぜそこで迷うのか。その理由をもう少し体系的に知りたい人には、この本がおすすめだ。

「人はどう見て、どう判断し、どう行動するのか」を心理学の法則から解説した一冊。UI/UXを感覚だけでなく、理由を持って設計したい人におすすめ。
¥2,420 (2026年9月23日 時点の参考価格)
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